今年は、野田秀樹や串田和美さんによる新作系はラインナップされず、夏芝居だからということか、二部と三部で怪談モノが。
演目と配役は「歌舞伎美人」サイトを参照。
残念ながら、勘三郎さんと三津五郎さまががっぷり組んで、という演目がなくて、さびしい。
一部は、真山青果「天保遊侠伝」と「六歌仙容彩」という番組。
実は、真山青果は、「御浜御殿」以外は、今まであまり面白いと思った芝居に出会ったことがなくて、今回もそれほど期待していなかった。
ただ、ここ数年、一部の幕開けの芝居で、勘太郎くんがいい芝居を見せてくれているので、そこに期待した、という感じ。お目当ては、当然?三津五郎様が踊る「六歌仙」の方だった。
「天保遊侠伝」。
勝海舟の父・勝小吉を主人公に、幕末の御家人の任官に関する腐敗と、父子の情を描いたっていう感じの内容。
まず、橋之助さん家の宗生くんが、勝麟太郎役でかなりがんばっていたのに、びっくり(笑)。所作にぎこちなさはあるけれど、セリフに関しては、いい感じ。麟太郎のセリフがよかったので、かなり感情移入できた。橋之助さんが逆に、吼えすぎてて、ちょっと引いたけど…。
勘太郎くんの、小吉の甥っていうのが、もう一つ人物像がつかめなかった。雰囲気は出てると思うんだけど。あの家から持ち出した大金はどうなっちゃうんだろう?と芝居が終わってから、ふと、考えてしまった。
この芝居では、なんといっても、萬次郎さんの阿茶の局が光っていた。
勝家の跡取り娘だったが、大奥に出仕することになり、跡継ぎとして、小吉が勝家に養子に入った、といういきさつから、小吉の無頼っぷりに心を痛め、聡明な甥・麟太郎の行く末を案じ、江戸城にお伽の若衆として仕えさせる決意を語る。
説明的にならず、情に流れすぎず、阿茶のセリフを聞いているだけで、ここに至る状況が、くっきりと見えてくる。
そういえば、「御浜御殿」でも、意地悪なお局様を演じて、短い登場時間ながら、存在感があったよなぁ~というのを、思い出した。
宗生くんと萬次郎さんのおかげで、楽しめた「天保遊侠伝」であった。
そして、お待ちかねの「六歌仙」。
この変化舞踊を通して上演するのは、とても珍しいこと。1時間45分ほどかかるこの通し、一人の役者が5つの役を変わり、その変化の妙を見せるのは、たしかに難しい(六歌仙のうち、小野小町だけは他の女形が演じる)。
遍照=僧正という位の高い、年老いたお坊さん
文屋=色好みの町人
業平=ご存知、美男で歌も上手な公家・在原業平
喜撰=姿をやつして祇園に遊びにきた、位の高いお坊さん、喜撰法師
黒主=小町に和歌を盗んだと、いいがかりをつける、天下の転覆を狙う悪人
この5人の男が、絶世の美女=小野小町(喜撰では祇園の茶屋の女将・お梶に置き換えられているが)に恋をしかけるが、全員、ことごとく振られてしまう、というのが全体の筋。
とはいえ、筋は二の次、三の次で、それぞれの男を、一人の役者がどのように踊り分けていくか、が見所となる。
今回、五役を続けて拝見できるという贅沢なひと時を堪能した。遍照は、もうちょっと老成感があった方がいいのかな?とも思うが、文屋・業平・喜撰・黒主の四役は、それぞれの役の違いが踊っていない時でも伝わってきて、さすがだなぁと。
特に喜撰は、この曲単独で踊られたのも拝見しているけれど、今回は、お梶に勘三郎さんが付き合ったというのもあって、見ごたえがあった。勘三郎さんの喜撰も見ているが、芸質からいって、三津五郎さまの方が喜撰には合っていると感じる。勘三郎さんだと、愛嬌がありすぎるんだよなぁ…。
所化で並んだ若手が、みんな三津五郎さまの一人踊りのところになると、ジーっと見てるのがわかって、お行儀が云々という硬い話はヌキにして、間近でこの踊りを見られる機会を、しっかり肥やしにするんだよ~と思った。
地方があれで、もうひとこえ行ってれば、言うことなし!なんだけどなぁ、残念。ちなみに、望月の家元が久々に出囃子に並んでいらして、びっくり。いろいろあるんだろうな…。
うーん、せめてあと1回、見たいなぁ「六歌仙」。
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